• ランニング、洋書ミステリー、ドクターのつぶやき。ちょっとはなれてあれこれ考えました。

The Pillars of the earth

日本語版は「大聖堂」

 ケン・フォレットの作品はどれも好きなのですが、スパイ小説・ミステリー小説作家のイメージが強く、この本を初めて読んだときは驚きました。中世のイギリスを舞台に、大聖堂を立てるために苦闘する人たちとその家族の人生を数世代にわたって描いています。
 仕事を失い凍てついた森の中をさまよう石工職人のトム・ビルダー一家と、両親を失い修道院で育てられた僧侶フィリップを中心に、恋人を殺されて森に逃げ遺児を育てるエレン、伯爵の令嬢ながらすべてを失ったアリエナと弟のリチャード、敵役のウォルラン僧正・伯爵ウイリアムが繰り広げる陰謀と裏切り、復活と再生の物語です。
 主人公たちや町の人らは繰り返し、街を焼かれ、踏みにじられ、暴力にさらされますが、それでも少しづつ進み続け、最後には誰も想像しなかったほど豊かな街を作り上げていくのでした。

 以前は日本語訳を読んで、面白さに夢中になりました。今回は英語版ですが、こった言い回しがなくとてもわかりやすいのに、情景が目に浮かぶのはさすがだと思いました。
 冒頭に作者のことばがあって、20代の駆け出しのころから胸に温めていて、何度も書こうとして挫折した作品だったこと、それまでの作品とあまりにもジャンルが離れていたために何回も出版を断られたこと、ところが何とか出版にこぎつけたらたちまち評判となり今では彼の代表作品とみなされるようになったことが書いてありました。
 読みながら思ったのは、作家は胸の中から湧き上がってくる「これを書きたい」という思いがあってこそ素晴らしい作品を生み出すのだということです。また、すらっと書けたものが必ずしも良いとは限らず、苦労して何回も書き直し、難産のすえ生み出したものが本人にしてみても最高の作品となることがあるのだなと感じました。

 舞台の町の名をとってキングスブリッジ3部作と呼ばれる作品群の一作目ですが、今年の9月に4作目が世に出る予定です。さあどんな話なのか、今から楽しみです。

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