認知症の判定に使われている「長谷川スケール」は医療関係者のあいだではあまりにも有名ですが、これを開発した長谷川和夫先生が自分自身が認知症となってからの経験を書かれたのがこの本です。
先日NHKの特番でご覧になった方も多いと思いますが、認知症は決して特別な病気ではなく、だれでもなりうるものだと改めて思いました。
読んでみて印象的だったのは、認知症の症状は固定されたものではなく、いい時もあれば悪い時もあること、そして認知症がある人もまたふつうの人間であって、ときには考えが混乱したり、記憶がなくなったりしても本人にしてみれば自分なりに頑張って生きているということです。
医療の世界でも言われることですが、「リウマチの人」「がんの人」はいません。リウマチで治療を受けている○○さん、がんで治療を受けている○○さんはいます。同じように、認知症になっている○○さんはいますが、認知症の人というくくりでまとめることはできません。
たしかに認知症になっているかもしれない。しかしその人は名前があり、家族がいて、さまざまな試練を乗り越えて目の前にいるのです。
今の医療では認知症をすっきり治すことはできません。それでもその人を理解し、尊重することはできます。長谷川先生はそのことを強調しているのだと思います。
もうひとつ、自動車運転はするべきでない。このことを長谷川先生は明確におっしゃっています。わたしは整形外科医なので、認知症の側面からお話しすることはできませんが、筋力低下・柔軟性の低下・神経反射の低下・判断力の低下は加齢とともに必ず訪れます。それを考えると、運転の適否について慎重に考える必要があると思います。これは私自身も謙虚に考えなければいけないようです。