年末年始にいくつかミステリー物を読んだので紹介します。Litigatorはジョン・グリシャムさんの作品です。超大手の弁護士事務所に在籍する若手弁護士がある朝突然事務所から飛び出し、近場のバーに駆け込みます。そこでぐでんぐでんに酔っぱらった彼はいつのまにか場末の弁護士事務所に入り込み、ソファでグーグー寝始めます。そしてほとんど押しかけの形で翌日から仕事を始めました。
たった二人しかいない弁護士、ひとりはやる気のない引退間近の弁護士、もうひとりは毎日救急車を追いかけ葬儀所を回っては訴訟になりそうな案件を探し回る中年の弁護士です。いつなくなってもだれも困りそうもないちっぽけな弁護士事務所。でも彼には、いくら金にならなくても目の前に困っている人がいて、解決すると喜んでくれるのがほんとうに新鮮だったのです。。いままでは一日15時間窓のない事務室でひたすら書類を作成する仕事ばかり、いくら高給でもそんな毎日が耐えられなかったのです。新米はほとんどなきに等しい給料でも喜んで働き始めました。
そんなある日、目の前に巨大医薬品企業に対する薬事訴訟の影がちらつき始め、中年弁護士が巨額の弁護士料を当てこんで動き始めます。さあ、貧乏で全く知識も経験もない分野に踏み込んだちっぽけな弁護士事務所の大冒険が始まりました。
勇気あり、笑いあり、情けあり、大失敗ありの波乱万丈の物語です。訴訟の結果はご想像にお任せしますが、バーンアウトした青年弁護士がしだいに元気を取り戻していく姿に共感しました。
弁護士物をいくつか読んでみて思うのは、職業的にはまったく違うものの働きがいとかストレスの大きさとか医療の世界と共通するところがある気がしました。グリシャムさんの小説では街角のしがない弁護士やドロップアウトしかかった人が主人公の場合が大半なのですが、金もひまもないが心意気だけははあるぞ!という価値観が医療の現場とよく似ています。名声や金でなく、良心に従うという当たり前だが必ずしも実行できるとは限らないことを大切にする。これが根底にあり、読後感がとてもさわやかな印象です。
マイケル・コネリーさんの評判の連作第一弾。こちらはタフで、必要に応じてやばい手段も遠慮しない敏腕刑事弁護士が主人公です。ロサンゼルスでおきた女性殺人事件で被告側の弁護を任されますが、おとなしそうな被告の無実は当然のように思えました。ところが…。
どんなに経験を積んでも、他人を評価するのは難しいことを痛感させられます。どんでん返しに次ぐどんでん返しが続き、ついには主人公の家族にまで危険が及びます。絶体絶命のように見える状況の中をどのように切り抜けるのか、最後の最後までハラハラドキドキの連続でした。フィクションなのはわかっているけれど、すさまじい暴力や銃撃事件が続き、やはりアメリカってタフな国だなーと思いました。
これもグリシャムさんの作品。無実の罪で刑務所に収監(死刑または終身刑)された人たちを助け出すのが使命の組織がガーディアンズです。主人公は、弁護士になったものの目的意識の喪失と仕事のストレスでバーンアウトし、ガーディアンズに出会ってやっと進む道を見出したポスト弁護士です。22年間無実の罪で収監され死刑の一歩手前までいった人を救い出すため、できうる限りの手を尽くしますが、その過程で犯罪組織の影がちらつき始め、闇に包まれていた過去の秘密が浮かび上がってきます。ほとんど無収入で懸命に働く主人公ですが、じつは牧師の資格を持っており、ガーディアンズや周辺の人たちもまた宗教的動機から動いているのです。
このへんは比較的宗教意識のうすい日本人から見るとちょっと違和感のある所だと思います。でも、ここにはアメリカ社会の優れた一面が見えている気がしました。ちなみに同様の組織が本当にあって無実の人たちを今も救い出しているのだそうです。