• ランニング、洋書ミステリー、ドクターのつぶやき。ちょっとはなれてあれこれ考えました。

必要な情報の集め方

 ちょっとかたい表題ですが、だれでも何かを調べたいときがあります。今の時代だとまずネットで検索することになりますが、これが難しくて、なかなか正確な情報にたどり着けないことがあります。
 今回ふと思い立って、ある健康商品のことを調べてみました。ベネックスという会社から発売されているTシャツです。

ベネックス社ホームページより

 疲労回復が図れるリカバリーウェアとして売られていて、運動時ではなく休憩時に着ることが勧められています。以前から製品そのものは知っていましたが、特に疲労感を感じていなかったのであまり注目していませんでした。

 先日リハビリテーションの学会で「画期的な転倒予防法」という発表を聞きました。金属を織り込んだバンドやスパッツ(ベネックスではない)を身に着けるだけで、病院内で転倒する人が減ったというので、(どんなメカニズムが働いたのか?)と考えていたらやっぱり同じ質問があって、発表した人は「私もわからないのです。ただしファイテンなどでも例があります」 と答えていました。
 (理論はだいじだけど、実地検証もだいじ)と思ったときに、ベネックスはプラチナを使った繊維を使っていることを思い出しました。

 Tシャツだったら買ってみようかな?!と見たら、1万1000円!もっと安いのを探したらこれがみつかりました。
 

アマゾンのページより

 ベネックス社製のネックウォーマーがついています。これなら1500円だから失敗してもしょうがないかな。と買ってみました。さっそく夜着けて寝たら、朝くびが軽い感じがしました。毎朝計っている血圧も今日は低めです。自律神経を整えるという触れ込みだから、効いたのかな?とがぜん興味がわいてきました。
 しかし1万円越えのTシャツとなると慎重になります。そこで調べることにしました。

 はじめはベネックス社のホームページ。基本的に商品を販売している会社の情報はかたよっている可能性を考えます。もちろん良心的なメーカーも数多いですが、売るという目的がありますから、ニュートラルな意見は期待するべきではありません。そう思って読みはじめましたが、主張している効能に対する説明のページがあり、そこから研究内容まで簡単にたどれるつくりになっていて好感が持てました。
 では研究内容を見ていきましょう。

1 筋トルクの低下抑制。ベネックスのスパッツを履いた人と、他社製のスパッツを履いた人の2群に分けて実験を行っています。ふむふむ。たしかに良さそうに見えます。
 しかし、ダブルブラインドになっているか全く不明です。どういうことかというとベネックスのスパッツかどうかを被検者・研究者者双方が知っている可能性があります。効きそうなほうがどっちか「知っている」と、当たった人(効きそうなほうを履いた人)は良い結果を出そうとがんばるかもしれません。無意識にそうしてしまう性が人間にある。これは人間を使う研究では有名です。また研究者はどうしても良い結果を出したがるのです。計測装置を使っている場合でもいろいろな理由から陽性の結果(研究者から見て望ましい結果)が出がちなことも広く知られています。
 そこで被検者にも研究者にもどっちなのかわからないようにする方法がダブルブラインド(二重盲検法)なのですが、実際にはとても慎重にやる必要が出てきます。この場合で言うと、見た目も、重さも、肌触りもすべて同じ2種類のスパッツを用意し、それがどっちか誰にもわからないようにランダムに配布される必要があります。
 というふうに厳密に考えるとこの研究の信頼度は決して高くない、ということになります。

2 ストレス物質の低減。唾液中のストレス物質を計測した結果を発表しています。ストレスを与えたときのからだの反応を見ているのですが、やはりダブルブラインドかどうか不明であること、そして男性女性あわせて15名というサンプル数の少なさが問題です。予備的な研究なのかもしれませんが、統計的にはっきりと物事を言えるようにするためには、もっとサンプル数をとることが必要です。この論文も信頼度が決して高いとは言えないようです。

3 免疫力がアップ。マウスを使った動物実験で、免疫にかかわるTリンパ球(白血球の一つ)の活性度を調べています。動物実験なのでダブルブラインドは必要ありません。良さそうな研究なのですが、ナノプラチナの他にナノダイヤモンドの溶液を布に塗って使っています。ナノダイヤモンドのことはほかのページに触れられていないので、ベネックス社の現在の製品にそのまま反映していいのか不明なこと、また動物実験の結果をそのまま人間にあてはめることには慎重でなければいけません。布で囲ったケージの中でマウスを飼うのと、家でくつろいだ時にTシャツを着るのを同列に扱えるのかな?

 こんな風に書くと、なんと理屈っぽいとお叱りを受けるかもしれませんが、なにかを言い切るにはこれだけの慎重さが必要だということを知っておいてほしいのです。
 論文の解説のなかには、ナノ白金繊維の温熱効果のことが触れられていました。断定はしていませんが、2,3の研究者の方々は遠赤外線の温熱効果が核心にあると考えている印象があります。
 温熱効果ならからだに良いというのもわかる気がします。そこで温熱効果がからだに与える影響を調べることにしました。

住宅内温熱環境が居住者の起床時家庭血圧に与える影響の冬季現地調査
詳細はコチラ

 一言でいうなら温かい環境のほうが起きぬけの血圧が低くなるという結果です。これには納得しました。肌の表面温度が上がるなら、ベネックスの製品は悪くないかもと思いました。

 そこでプラチナを練りこんだ繊維に遠赤外線効果が期待できるのかを調べました。
 Wikipedia、各種の大学や研究機関のホームページから情報を抜き出すと、金属ナノ粒子は光などのエネルギー(電磁波)を照射されると遠赤外線を発生させることがわかりました。Wikipediaはたまにあやしい情報もありますが、最近はずいぶんと正確になってきているようです。
 肌に触れるものですから、プラチナが皮膚を通して吸収され、害をなす可能性も検索しました。ほとんど吸収されないと書いてあるものが多いのですが、金属アレルギーの中にはプラチナもあることを知っていますから、アレルギーの可能性は否定できないと思いました。

 そんなこんなで、Tシャツを買いました。温熱効果なら悪くないかもしれないと思ったのと、アマゾンや楽天の口コミをのぞくとまあまあ評判がよさそうだったからです。口コミはもっとも信頼性が低いのですが、やっぱり気になります。

 書くとややこしい感じですが、実際は空いた時間にちょこまかと調べたので大した負担にはなりません。ネット時代の情報検索はめんどくさいかもしれませんが、それだけふつうの人たちがたくさんの情報に触れることができるようになったわけです。うまく使いこなすためのトレーニングを学ぶ場が必要かな?と思いました。
 また健康関連の商品の情報はたくさんあるように見えて一般に信頼度が低いものが多いので、判断が難しいです。こつは公的な研究機関や大学の情報を集めることです。
 さいわいTシャツの着心地は良く、朝の血圧にもいい印象です。いい買い物をしたのかも。でも結果はもう少し待ってから判断するつもりです。

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