キングスブリッジ3部作の第2弾、第1作から200年後、町は繁栄し、第1作の主人公たちの子孫が今回は活躍します。
前に読んだときは前作ほどのインパクトがないと思いましたが、当時のヨーロッパ世界にきわめて大きな影響を与えたペストがついにイギリスに上陸した時、どんなことが起きたか、そしてペストが社会や経済に与えた影響が克明に描かれていて、胸に詰まる思いで読みました。
主人公は中世の女性としては信じられないくらい自由な生き方を求めるカリスと、騎士の家に生まれながら大工の徒弟となったマーチンです。子供のころから友達だった二人はやがて恋人同士となりますが、さまざまな苦難が待ち受け、お互いに強くひきつけられているにもかかわらず、全編を通してくっついたり離れたりします。マーチンは遠いご先祖の血を受け継いだのか一流の大工・建築家に育ちます。カリスはとても知的で、当時の人たちが当たり前と思っていることをすべて疑う、ほとんど現代の人と言って良いくらい自立した女性なのですが、なんの因果か女性修道院の院長になってしまいます。
14世紀に上陸したペストにより、イギリスは当時の総人口の3分の1を失ったそうです。町や村が全滅したところもありました。ペストの流行は2回あり、キングスブリッジの町もひどいダメージを受け、助かった人たちは自暴自棄となって暴力・放埓・飲酒・破壊が続きますが、カリスは仲間たちと協力して町を再建していきます。10年後2回目の流行が始まった時、修道院長・町のオーナーとなったカリスは町のロックダウンを敢行します。食料・資材などあらゆるものは閉ざされた街の門の前に置かれ、合図とともに門から人が出て回収します。支払いや資材の搬出は逆方向に手順を踏むことでお互いの経済活動が保たれました。このドラスチックな処置により、周囲の町村がふたたびペストの流行に苦しむ中、キングスブリッジの町はわずかなダメージを受けるだけで乗り切ることができました。
ペスト流行後のイギリスは人口が激減し、極端な人手不足に陥ります。そのため古い荘園・農奴制がくずれ、人はより自由に行き来できるようになりました。ノルマン・フランス語を話す聖職者・支配層が多く亡くなったことで、民衆のことばだった英語が優勢となっていきます。
修道院長となったカリス、生涯の願いであるイギリス一高いタワーを築いたマーチンの二人はどうなっていくのでしょうか。ここはぜひ!本を読んでいただきたいと思います。最後は幸せになる、とだけ言っておきましょうか。